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蘊蓄
今年の夏も暑かった―。
昔から好きな季節はと聞かれたら迷わず「夏!」と答えていたものだが、地球温暖化の影響か、加齢のせいか室内と外気温度の差が激しすぎて体内のサーモスイッチがタイミング良く作動しなくなって、すっかり夏が苦手になってしまった。
残暑も厳しかったが、それでも9月に入って急に朝夕が過ごしやすくなり、秋は駆け足でやってきた。そしてほっとしたのもつかの間で、秋は駆け足で去っていく。
窓を開けると夜風がひんやり心地よいから肌寒くなるまでのこの短い時期、私は待ってましたとばかりぬる燗を飲み始める。
もちろん、夏の間もクーラーが効いた割烹料理屋や居酒屋ではぬる燗を飲む事にしているが、ジムでたっぷり汗を流した後や日当たりの良い自宅のリビングで飲む場合はどうしてもビールから始まり、冷酒やワイン、スパークリングワインなどを選んでしまう。
だから夏の終わりはちょっと胃が重たいなと思う事が多いのだが、秋になってぬる燗を飲むようになると嘘のようにケロッとしている。おまけにお肌のコンディションも整い、しっとりとしてくるからこれを一石二鳥といわずしてどうするだろう。
食事も然り。夏の間は脂っこいものや刺激的なものを好み、やれイベリコ豚だの王さんの手作り餃子などとお得意のネットショッピングでお取り寄せしたものだ。しかし秋が深まるにつれ、食卓には定番の湯豆腐に加えて肉厚しいたけの岩塩焼きや菊菜のおしたしなどスローフードが並ぶようになる。そう言えば夏の間、あれだけ活用したナンプラーもチリソースもしばらく登場していないなあ〜。
秋から冬にかけてはオーソドックスな和食が一番。月を愛でながら、虫の音に耳を傾けながらお気に入りの燗上がりの酒があれば、安上がりで幸せな気分が味わえる。手に馴染んだぐい飲みが「お疲れ様」とささやいてくれるようだ。
もう一つ、わが家の食卓に秋から登場するものがある。日本酒をお燗する機械(道具?)通称「かんすけ君」である。昨年の秋口に購入してから私はすっかりかんすけ君が手放せなくなってしまった。
コンセントもスイッチもついていないアナログなかんすけ君は木箱の中の陶器に熱湯を注ぎ、そこに専用の錫のちろりに酒を入れて燗をするというもの。これが絶妙なぬる燗に仕上がり、なんとも優しい味わいなのだ。熱燗にするには向いていないが、缶ビールを飲み乾す前にいい具合に出来上がる。錫は熱伝導が良いので温まりやすく覚めにくいという特性を持っているし、日本酒の味をまろやかにしてくれる。
私は日本酒関係の講演会に呼ばれたときには必ずこのかんすけ君を持参して、いかに素晴らしいかを説明することにしている。値段は1万5千円前後とややお高いが、すり減ることも壊れることもなく毎晩使い続けることができるのだから安いもの。高価な日本酒を電子レジでチンするよりは経済的だとも思う。
その上、台風で停電してもかんすけ君だけはちゃんと働いてくれる。台風の夜にろうそくの明かりの下でかんすけ君と向かい合うなんて、考えただけでもワクワクするのは私だけだろうか?!
まだ電子レンジでチンしているお父さん、ゴルフに行くのを1回我慢して頑張っている自分へのプレゼントにしてみませんか?
それから食事をしている最中に何度もチンさされるのがめんどくさいというお母さん、一家に一台かんすけ君はいかがですか?!
秋から冬へ―。わが家ではこれからますますかんすけ君が活躍しそうである。
コピーライター・酒エッセイスト
杉井美之
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